建設業許可 新規・更新で使う財務諸表について

建設業法

建設業許可の新規取得や決算変更届などで財務諸表を添付する必要がありますが、この財務諸表は税理士の先生が税務申告用に作成された決算書をそのまま添付したり、単に転記したらOKというわけではありません。もちろん税務申告用決算書がベースにはなりますが、これを建設業簿記の考え方で一部変えて作成しなくてはなりません。

ここでは作成方法をポイントでご説明します。

建設業許可で使う財務諸表

建設業許可で使う財務諸表は、つぎのとおりです。法人と個人事業主と異なります。

法人・貸借対照表(法人用)
・損益計算書(法人用)
・株主資本等変動計算書
・注記表
個人事業主・貸借対照表(個人用)
・損益計算書(個人用)

財務諸表の作成

勘定科目の意味と内容

建設業用財務諸表には、一般の財務諸表では使われなかったり、異なる意味で使われる勘定科目があります。

勘定科目意味
完成工事高建設工事の売上高
売上高建設工事以外の売上高
完成工事未収入金建設工事の未収入金
売掛金建設工事以外の未収入金
工事未払金建設工事の未払金
買掛金建設工事以外の未払金
未成工事支出金建設工事の棚卸額(仕掛工事)
商品、材料建設工事以外の棚卸額
未成工事受入金建設工事の前受額
前受金、仮受金建設工事以外の前受額

転記要領のポイント

共通点

  • 税理士の先生が税務申告用に作成した財務諸表を元にして転記していく。
  • 「工事」と「その他事業(工事以外が複数業種あってもひとまとめ)」に分割してまとめる。
  • 勘定科目の数値を分割・統合等必要な処理をして転記する。 
  • 建設業用財務諸表用紙に記載してある科目以外は合計して「その他」に集計する。
    決算書に記載されている科目や金額をすべてそのまま転記する必要はない。
  • ただし、資産・負債合計の5%を超えるものは科目を作成(不要科目を削除して書き換え)して記載する。

貸借対照表

  • 回収見込みのない債権(=2年以上同額で掲載した債権の場合)は「完成工事未収入金」から「破産更生債権等」に振替する。
  • 繰延資産は科目が限定されているので、該当しないものは「長期前払費用」に振替する。 
  • 電子記録債権は手形として扱う。

損益計算表

  • 「消費税込」か「消費税抜」かいずれかに統一する。但し、経営事項審査の受審者は「消費税抜」(免税事業者は「消費税込」)にする。
  • 売上一括計上の場合は完成工事高、兼業売上に分割する。
  • 兼業ありで原価を一括計上している場合は、工事原価とその他原価に分割する。
  • 建設業用財務諸表に科目の載っていないものは「その他」に集計して転記する。  
  • 法人税等は「租税公課」ではなく「法人税、住民税及び事業税」に記載する。当期分の法人税等も計上する。
  • 「手形割引料」は「手形売却損」として計上し、「支払利息」に含めない。

完成工事原価報告書

  • 税務申告用の財務諸表に含まれていなければ作成する。
  • 登記に完成した工事に直接関係するものを集計する。
  • 工事に携わった作業員の給与等は「労務費」に記載する。
  • 技術職員や事務員など作業員以外の給与等は「経費」の「うち人件費」に記載する。
  • 貸借対照表の「未成工事支出金(仕掛工事)」は「期末仕掛工事」として反映させる。ただし、完成工事原価報告書には記載欄がない。
  • 材料費、外注費等に分割又は単独で調整する。

株主資本等変動計算書

  • 前期末の数値を基準にして、前期からの変動を表示する。
  • 「当期純利益」は、損益計算書と一致させる。
  • 「当期末残高」は、貸借対照表の「純資産の部」の各数値と一致させる。

注記表

  • 消費税の処理方法は必ず記載する。
  • 「受取手形割引高」、「受取手形裏書譲渡高」があれば必ず記載する。
  • 他の項目は必要に応じて記載する。

数字を一致させる場所

貸借対照表

資産合計= 負債・資本合計
純資産の部の各数値= 株主資本変動計算書の登記末の数値

損益計算書

完成工事高= 「直前3年施工金額」の総合計額
= 事業報告書の当期完成工事高
完成工事原価= 完成工事原価報告書の完成工事原価
当期純利益= 株主資本変動計算書の当期純利益
= 事業報告書の当期純利益

建設業用財務諸表作成のための確認と対応

工事専業か兼業ありか ⇒兼業のある場合

①売上高を「工事」と「その他事業(兼業)」に分割する。

  • 完成工事高とその他事業売上高を確定させて、兼業割合を算出する。
  • 売掛債権が「売掛金」、「未収入金」等の科目で一括計上されている場合は、売上の兼業割合により「完成工事未収入金」と「売掛金」(兼業の売掛債権合計額)に按分する。
    正確な金額がわかっている場合はその金額を記載する。
    分割計上されている場合も申告書「勘定科目明細」等で確認する。(経営状況分析では売掛金明細が要求されるため)
  • 必要に応じて「前払金」、「前払費用」、「未成工事支出金」等も分割する。
  • 税務申告用決算書では兼業として処理されていても、金額が僅少である等「事業」と判定できないものは「雑収入」として「売上」から除外し、兼業としなくてもよい。

② 原価を「工事」と「その他事業(兼業)」に分割する。

  • 原価計算ができていない場合は、後掲「完成工事原価報告書」により原価計算する。
  • 完成工事原価(完成工事原価報告書の合計額と一致)とその他事業原価を算出し、原価による兼業割合を算出する(売上高に係る兼業割合を使用してもよい)。
  • 買掛債務が「買掛金」「未払金」等の科目で一括計上されている場合は、原価の兼業割合により「工事未払金」と「買掛金」(兼業の買掛債務合計額)に按分する。
    正確な金額がわかっている場合はその金額を記載する。
    分割計上されている場合も申告書「勘定科目明細」等で確認する。(経営状況分析では買掛金明細が要求されるため)
  • 必要に応じて「前受金」、「前受収益」、「未成工事受入金」等も分割する。
  • 兼業については原価の内訳は不要。(合計額のみ)

完成工事原価報告書の有無⇒完成工事原価報告書がない場合⇒製造原価原価報告書等で原価計算はされていても労務費や経費が建設業用に計上されていない場合

① 完成工事原価報告書の作成

  • 原価とは、販売する商品の入手価格(仕入、製造・製作)をいう。業種により原価の範囲は相違していて、工事の場合は、「材料費、労務費(「うち労務外注費」)、外注費、経費(「うち人件費」)」が原価の範囲。
  • 税務申告用決算書の中の「製造原価報告書」等をベースに作成する。
材料費工事を行うため直接購入した材料の費用。
基本的には製造原価報告書に記載されている材料費(素材・半製品・製品・材料貯蔵品勘定など)をベースに、未完成工事の原価を引いた金額を記載。
「在庫」として持っていた材料を工事に使った場合は算入しない。
労務費工事に携わった(単純労働)作業員の賃金・法定福利費(社会保険料等)などの合計金額。
作業員の雇用形態は問わないが、直接雇用が条件。
基本的には製造原価報告書に記載された数値がベースになるが、製造原価報告書の金額には配置技術者、現場事務所の事務員といった「作業員以外」の人件費も含まれるので、それらを差し引き、「経費」の(うち人件費)に含める。
「(うち労務外注費)」には外注費のうち「大部分が労務費であるもの」を記入する。
外注費工事の素材や半製品・製品などの製造を外注した場合にかかる費用。原則として自社の作業員が関わったものについては労務費で、他社の作業員が関わったものは外注費となる。
基礎工事、屋根工事、設備(水道、電気)工事、内装工事等の外注が典型例。
ちなみに、材料費を自社(発注側)が負担して製造作業だけを外注する場合や、人手不足を理由に他社から応援の人材を受け入れたような場合は労務費の「(うち労務外注費)」に記載するのが原則。
経費完成工事に直接関連して発生・負担したさまざまな費用のうち、材料費・労務費・外注費に含まれないものの合計金額。
配置技術者、作業現場事務所の事務員など作業員以外の人件費もここの(うち人件費)に含む。
重機の使用料金や工事関係の光熱費、現場代理人や現場事務所の事務員に払う給料・保険料、警備関係の費用などは、完成工事に直接関係している限り、完成工事原価報告書の経費に含める。
逆に、建設業者の事務所の賃貸費用や光熱費、管理部門給料などは完成工事原価報告書に含めない。

消費税に関する確認【経営事項審査を受審する場合】

① 課税業者か免税業者かの確認方法

  • 決算書の「注記表」で確認。
  • 申告書の「法人事業概況説明書」で確認。
  • 課税業者の場合、消費税申告書の「課税標準額」欄①の金額と決算書の「売上高」を比較して確認。
    「課税標準額」≧「売上高」: 税抜処理
    「課税標準額」<「売上高」: 税込処理
    ただし、「建売業」兼業者なとせ、非課税売上があるときは要注意

② 売上高(完成工事高)の確認・・・課税業者

消費税申告書及び納税証明書(その1)を使用して確認する。(納税証明書は完納の確認ではないので未納税額があっても可)

  • 納税証明書の「納税すべき税額」と申告書の「納税すべき税額」を比較して、税額が一致していれば、税額計算の基になっている申告書の「課税標準額」は正しい。
  • 「課税標準額」≧「売上高」なので、決算書の「売上高」と比較して「課税標準額」が「売上高」以上であれば、決算書記載の「売上高」は正しいと推定される。
    ※ 「課税標準額」には「売上高」以外にも雑収入等の収益が含まれる

② 財務諸表の変換

経営事項審査を受審する業者で、消費税込の経理処理をしている場合は、損益計算書、完成工事原価報告書を消費税込から消費税抜に変換する。(貸借対照表は変換不要)