「別途協議」は何も決まっていないのであぶない

あぶない契約書
どてらいさん
どてらいさん

「別途誠意をもって協議する。」という条項はどう思いますか。

すぎやん
すぎやん

結局、何も決まっていないのと同じこと。

契約交渉過程で使いたくなるのはわかるけど、使い方には注意しないといけないですね。

別途協議条項ってどんな条項

別途協議条項とは、「契約に基づく取引の中で「ある状況」が生じたときは、契約当事者が別途誠意をもって話し合って、対応策を決めましょう。」という趣旨の条項です。
そしてその「ある状況」に代入される内容は実に本当に様々です。例としては、
• 支払いが○日以上遅れたとき
• 発明をなしたとき
• 取引対象物が故障したとき
• 取引対象物に関して第三者から知的財産権クレームを受けたとき
• 当事者の一方が第三者に買収されたとき
などなどあります。そのうえで、条文としては、

〇〇〇〇のときは、甲乙誠意をもって協議して対応を決定するものとする。

という内容になります。

どういったときに別途協議条項になってしまうか

私の法務実務経験の中でも、この誠意協議条項が多用されている契約書に接する機会もありました。
なぜ、誠意協議条項が増えてしまうか、典型的な流れは下記のような流れです。

相手方から提案された契約ドラフトに、当方不利な条項があった場合、当方有利な内容に変更するようカウンターを出して要求します。
そして喧々諤々の契約交渉が始まります。
お互い一歩も引かず交渉が長期化していく中で、ビジネスサイドから取引を早く始めたいという要求が高まり、何とか契約書を早くまとめたいという双方の思いが高まってきます。

その際に、「議論継続中の条項(オープンイシュー)については、別途協議条項にして取り急ぎ契約書を結びましょう」という合意に至る。
その結果、別途協議条項が多い契約になってしまうという流れです。

ある意味日本的条項

海外の相手方との契約交渉で、上記流れに基づく別途協議条項の提案をすると、海外の相手方はきょとんとされる方が大半です。「それって契約していないことと一緒じゃないか。私たちは何のために契約するの?さあ議論を続けましようよ。」ということになります。

別途協議条項というのは日本の契約観を如実に表現している条項といえるかもしれません。

立場によって価値は変わる

別途協議条項はなにも決まっていないのと同じなので契約をする意味ないということですが、すぎやんは、その価値は当事者が置かれた立場によって相対的だと考えています。

特に、ポジショニング的に強い立場の相手方と契約する場合は、ほとんどのケースで相手方からとんでもなく相手方有利な標準契約書がドラフトとして提案されます。そして交渉に入るわけですが交渉力の差は歴然です。先方有利な契約ドラフトを当方有利な内容に巻き戻すのは至難の業です。

そこで使うのが別途協議条項の提案です。その際の主張ロジックは知恵を絞らないといけませんが、何とか別途協議条項で合意を取れたら、結果的には当方にとっては良かったことになります。つまり、元の先方圧倒有利な契約を締結するよりましという考え方です。

別途協議条項は、ゲームでいうと引き分けというか雨天順延みたいなものです。完全に負けるより引き分けの方がまし、引き分け狙いの交渉戦術というのもあり得ます。

どてらいさん
どてらいさん

めちゃめちゃ不利な条項を呑み込まされるよりも、「別途協議」で先送りにした方がましなことがあるということですね。