おかげさまで秘密保持契約の締結押印まで済みました。これで安心です。
よかったですね。でも安心しきってはいけませんよ。これからが本番ですからね。
ちょっと、説教じみたもの言いになってしまうのですが、
「秘密保持契約にしても何契約にしても、苦労して交渉して何とか締結まで持ち込めたら、それで安心してしまって、意識の中から契約のことなんかすっ飛んで行ってしまう人がなんと多いことか!」
というのが、長年契約法務を経験してきたすぎやんの心の叫びです。
今回は、ちょっと、すぎやんのぼやきにお付き合いください。
契約書の規定と実務運用のずれに気づいていない
契約書を締結した当初は、契約書の規定内容を意識して実務を行いますが、時間の経過とともに、やがて実務が契約の規定と離れていくことがよくあります。例えば、下の四角内に記載したようなことです。。。
契約には「書面で秘密情報を開示するときは、秘密である旨を表示する。」となっているのに、秘密表示をせずに秘密情報を開示している。
→秘密表示のない情報は秘密情報としては扱われません。漏洩されても文句を言えません。
契約には「口頭で秘密情報を開示したときは、開示後10日以内に書面化して交付する。」となっているのに、書面化も交付もしていない
→秘密情報を口頭で開示しっばなしでは秘密情報としては扱われません。
契約には「秘密情報を第三者に開示してはならない」となっているのに、親会社に対して開示している。
→親会社といえども、別法人であり第三者です。相手方から契約違反と責められても言い訳できません。
契約には「秘密情報の複製は禁止」となっているのに、情報をメールに添付して社内で拡散している。
→メール添付により複製されており、明らかな契約違反です。情報管理の姿勢が問われます。
などなど、ありそうな話ですよね。でも、これらは全部契約違反です。
契約の当事者間のビジネス関係が良好な間は、このような契約違反は、気づいていても指摘しないことが普通です。しかし、一旦その良好な関係が崩れると、相手方の契約違反の指摘をしたりします。
契約期間が過ぎてしまっていたが気づいていない
秘密保持契約の有効期間が過ぎてしまっているのに、それに気づかず秘密情報の開示を継続していた。
この場合は、有効期間が過ぎた後に開示した情報は、秘密保持契約の適用を受けないので、万一外部に漏れてしまっても、原則としては文句を言えないことになります。(ただ、現実には、相手方が契約期間の切れていることに気づいていないことを奇貨として、受領情報を意図的に漏洩したり悪用したりすると、一定の責任は生じると考えられますが・・・)
「そんな凡ミスあり得ない。」
と思われたかもしれませんが、実はまあまああるんです。
秘密保持契約の締結件数が少ないうちは大丈夫でしょうが、多数の秘密保持契約が同時に走るようになったときには、そんなこともあり得るのです。
こういったことを防止するには・・・意識の問題
意識の問題として、「契約の目的は、締結することにあるのではなく、締結した契約の内容を互いに守ってビジネスを円滑かつ効果的に進めることにある」ということを、改めて肝に銘じていただきたいと思います。
やや精神論になってしまいますが・・・
現実には、締結した契約書原本はファイリングして書庫の奥にしまい込んだり、電子化してデータベースに格納しておく。よって普段目に触れる状態にないというのが普通だと思います。(実はファイリングさえできていないこともあるのが現実ですが…、ここはあまり掘り下げないことにしましょう)
しかし、これではちょっといけないとすぎやんは思うのです。
ビジネスを担当する人は、自分の仕事に関連する契約書をいつでもすぐに参照できる状態にしておくことが必要だと考えます。
こういうと、
「契約条件はだいたい頭に入っているし大丈夫だよ。」
「取引相手とは日ごろから良い付き合いができているので、契約書なんて見る必要ないよ。」
「契約書の話を出すと、何をしゃくし定規なこと言ってるねん、みたいな雰囲気になるよ。」
といった反論が聞こえてきそうです。
しかし、すぎやんとしてはちょっと心配です。もちろん契約書の内容を暗記しろとか、契約書のコピーを常に携帯しろとか言うつもりはありません。
提案したいのは、
「取引の中で何か引っかかるようなことや気になることがあれば、すぐに契約書にはどう書いてあるかを確認して次の動きにつなげるようにしよう。」ということです。
海外企業はこのような意識が高い傾向にあります。彼らは何かあるとすぐに契約書に基づいてもの言いをしてきます。「御社のこの行為は、契約第〇条に違反しています」という警告レターが届いたり、契約違反に基づく契約解除通告とか損害賠償請求が不意に届いたりします。
すぎやん自身はこのようなドライな契約意識にはちょっと抵抗感があるのですが、日本の企業や個人にもこのような契約観が浸透しつつあると感じています。
ぜひ、契約書を意識したビジネス運営に意識を転換していきましょう。
ちょっと耳が痛いお話でした。でもよくわかります。
行政書士すぎやん事務所では、実務にフィットした契約書の作成を行っています。ホームページをご覧ください。