契約書の提示を受けて、「一切変更不可です。」と言われました。
契約の中身を見る前にそう言われても・・・。
かなり横暴な言い分だと思いますが、実はありがちな言い方ですよ。
こういわれたときにどう対応するか考えていきましょう。
一切変更不可の契約
契約書の提示を受けて、しょっぱなに
「一切変更できません。各社様にこのまま変更せず締結していただいています。〇〇日までに捺印してお持ちください。」
と宣言される場合があります。
これは、本来あるべき契約交渉を門前で拒否している形です。このような提案は取引上の立場が非常に強い者が弱い者に対して行うことが多いです。それも決してまれなことではなく、頻繁にある話です。
英語のビジネス会話のフレーズで「You can take it or leave it. 」というのがあります。「それを取るか、取らずに立ち去るかはあなた次第です。お好きにどうぞ。」という意味であり、「契約をするか契約をしないかはあなた次第。」ということです。
こういう提案を行う側としては、「いくらでも他に自分と契約したがっているお客さんがいるし、目の前の契約候補が嫌がって立ち去ったとしても、痛くもかゆくもない。」という前提の場合が多いことも確かです。
しかし、中にはそういった提案を、相手方を狼狽させ、契約交渉を省いて早期に契約するための策として用いている場合があることも認識しておくべきでしょう。
この場合は提案者側もできうる限り契約をしたいという思いが心の奥底にある場合も多いです。
心の中を読むことは非常に難しいものの、交渉時や普段の会話の中で、上記のどちらかを見当つけておくことが重要になってきます。
つぎに、一切変更不可の契約書の提示を受けたときにどう対応するべきか、考えていきましょう。
一次対応について…やってはいけないのが「読まずに締結!」
「一切変更不可」とか「他社もみんなそうしている。」とか「いつまでに契約して下さい」とか言われると、まず第一に、メンタル的にかなり揺さぶられ、強いプレッシャーを感じると思います。
そしてそういった心の動きはつぎの2種類の反応につながります。
一つは反発型の反応で、「何をえらそうに。当方も別に他の契約先はあるはずだし、屈服して契約をする必要ないわい!」という反応。
もう一つは卑屈型で、「とにかく相手方の言う通りにして、相手方に気に入られて取引した方が得だ。」という反応です。
これらどちらの反応になるかは交渉者の性格によっても変わってくるところでありますが、一番ベストなのは、そういった感情的な反応は極力排除して、冷静に落ち着いて対応することです。
一切変更不可の言葉におののいて、その場で契約書を読まずに捺印したりサインしたりすることや、そのままの契約書を締結する約束をすることは、極力避けるべきです。
契約書にどんなに不利な内容が書いてあったとしても、のちのち取引でトラブルが発生して、契約書の規定が問題になったときに、
「一切変更不可と言われたので契約の中身は読んでいない」、
「そんな契約条件があることを知らなかった。」、
「契約を渡された時の説明と違う」あるいは
「そんな不利な条件だということを知っていたら契約していない」
といった言い訳は、いずれも原則として通用しないからです。
裁判所も世間も、ビジネスの世界で契約を読まずに締結することなどあり得ないと考えていますし、契約書の捺印や署名は契約書の内容に同意したことの証明と認識されます。
覚書対応という奥の手を知ったうえでベストの一次対応
一切変更不可の契約であっても、付帯覚書という形で、一部の変更を認めている場合があります。
もちろん一切変更不可と言っている当事者の方から、「覚書対応で変更は可能ですよ」とは、まず言ってこないです。必ず、一切変更不可と言われた当事者の方から、覚書対応という奥の手で契約の一部変更を勝ち取るために交渉をする必要があります。かなり厳しい交渉になりますが、その覚書対応を持ち出すタイミングは注意が必要でしょう。
冒頭から言い出すのは態度が硬化する可能性があるので避けるべきで、次に述べる契約書の内容分析をしたうえで切り出すのが適切だと考えます。
したがって、まず行うべき一次対応は、「一切変更不可」という宣告にはあえて言及せず、契約書案を受け取って内容を確認してお返事します、という趣旨を返すことです。
これには、先方が契約交渉拒否の姿勢を見せているのに対して若干けん制する意味合いがあります。
この場面で「なぜ一切変更不可なんですか。」とか「変更してもらわないと困ります。」といった議論は、あまり意味がないと思われます。
「ありがとうございます。(提示された)契約書の内容を確認させていただきます。〇〇日までには回答いたします。」
契約書案の確認とリスク分類
次に、一切変更不可の宣言を受けて提示を受けた契約書を持ち帰って検討していきます。
そのうえで、契約に含まれるリスクの強弱を段階に分けて分類していく必要があります。タームシートのような表を作成して整理するのが有効です。
リスクの段階は以下のようなものが考えられます。
- A. リスクがなく、問題ない条項
- B. リスクがあるが、インパクトが小さく、許容しうる条項
- C. リスクがあるが、発現可能性が低いリスクであり、確率的に許容しうる条項
- D. リスクがあるが、保険の付保や他社への転嫁により、許容しうる条項
- E. リスクがあるが、条文を変更したり削除したりすることによって許容できる条項
- F. いかなる方法によっても許容できない条項
リスク分類結果に従ったベストな対応とは
このリスク評価と分類の作業を行った後、契約書全体を分析して、ベストな対応を考えていきます。
リスク分類 AランクからDランクの条項
契約書のなかにリスク分類AランクからDランクまでの条項しかないときには、抽出したリスクを常に認識してビジネスの運用を注意することを前提に、先方が言う通り契約書を変更せずに締結するという選択肢もあり得るでしょう。
「お時間を頂戴しありがとうございます。ご提案の契約に同意しますので手続きを進めてください。」
リスク分類 Eランクの条項
リスク分類Eランクの条項については、覚書形式での対応の余地があるか、相手方と協議するべきです。もちろんなかなか厳しい交渉になるとは思います。
交渉の進め方としては、あまりあれもこれも変更してほしいと言うよりも、どうしても受け入れできない限定的な部分(Eランク、Fランクの条項が中心か)に絞って交渉すべきです。
「契約書を拝見させていただきました。おおむねお受けして良い内容でしたが、●箇所だけ弊社内でどうしても受け入れできない内容がございます。それは〇条と〇条で、かくかくしかじかの理由でお受けできません。弊社内で検討した結果かくかくしかじかに変更をしていただければお受けできます。弊社内で覚書の文案を検討致しましたので、こちらに御同意いただけないでしょうか」
リスク分類 Fランクの条項
リスク分類Fランクの条項が含まれている場合は、なんとかリスク分類Eランクに変換できないか検討をすることがおすすめです。
どうしてもそう言った変換が不可能な場合は、あとは事業判断という領域に入っていきます。
つまり、リスクを呑み込んで契約を締結してビジネスを行うか、その相手方とのビジネスは諦めて、他とのビジネスを模索するかの、重大な選択になってきます。
「ご提案いただいた契約書案を拝見しました。変更は許されないとの前提で弊社内で熟慮を重ねた結果、まことに残念ながら今回は契約できないという会社判断に至りました。」
ということになるでしょう。
これに対して、相手方がどう出てくるか。
つまり、何らかの譲歩案を提示するか、「そうですか、また機会があればお願いします。」とあっさりと立ち去っていくかは、正直分かりません。
譲歩を期待して上記発言するのは危なすぎますのでご注意ください。
契約書のリスク分析をしっかりしたうえで締結すれば、そのリスクを意識しながら実際の取引することにより、契約上の問題も克服できますね。
そうですね。契約原案一切変更不可と言われてしまっても、対応法を何とか考えようという気持ちが大切ですね。